こけし

 小学二年の頃、同じクラスの大ちゃんの家に遊びに行ったとき、初めてこけしというものを見た。
 大ちゃんの家はマンションだったが、一室だけ薄暗い和室があり、こけしはそこに並んでいた。
 和室には民芸品や郷土玩具が所狭しと並べられており、その部屋に入ると、タイムマシンで昔に行ったような、昔ばなしの中に忍び込んでいるような気がしたものだ。
 大ちゃんのお母さんは青森の人で、壁には津軽の凧も飾ってあった。きっと故郷を懐かしんで集めておられたのだろう。

 一本のこけしが目が付いた。
 「キナキナ」と呼ばれる無描彩のこけしで、花巻で作られるものだが、顔も描いていないし、子どもの目にはとても異質なものに思えた。
 ぼくは大ちゃんに、これはのっぺらぼうのこけしか、と尋ねた。
 大ちゃんは、こけしにはそういうものもある、と言った。

 こけしにはそういうものもある。
 今でもどうかすると、大ちゃんのそのひと言を思い出すことがある。
 浅はかな自分の選択や行動を、大ちゃんの言葉が諭してくれるような気がする。
 「こけしには、そういうものもある」
 ぼくは大ちゃんから、「もの」の本質を教わったような気がする。

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