くつぜん

 生まれ育った町に「くつぜん」という靴屋があった。
 高い靴は置いておらず、アサヒとか月星といったズックやサンダルを主に扱っていて、学区内の子供たちは新学期が近付くと、ここで靴を新調した。
 色とサイズを告げると、店主はニコニコしながら脚立に乗り、天井に届くまでうずたかく積まれた沢山の箱の中からひとつ抜いて渡してくれた。リノリウムの剥げた黒いたたきには、潰した空箱が散らばり、その上で試し履きをする。
 小さな角店は、それ自体が靴箱のようだった。
 店主は大きなグローブのような手をしていた。いつもニコニコしていた丸顔のおじさん、あのうずたかい靴箱とともに思い出す。

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